筆者は仕事柄、取引の会計処理や計算方法についての質問・相談を多く受けますが、このとき、しばしば犯してしまう過ちがあります。「正しい」処理や計算を教えてしまうことです。
――●経理における「重要性」
会計士という立場上、つい理論的に厳密な、あるいは会計原則に則った処理を教えてしまいがちなのです。しかし、それが実務的にも「正しい」処理とは限りません。
会計の目的は、企業内外のステークホルダーに経営判断の資料を提供することにあります。ということは、経営判断に影響を与えないような、瑣末な取引については、「適当な」処理をしても構わないという判断が成り立ちます。
この「取引の経営判断への影響度」を、「重要性(Materiality)」といいます。
重要性のない取引は、むしろ「適当な」処理こそが正解です。厳密な処理のために時間(コスト)をかけるのは、無駄だからです。経理の仕事にも、コスト・パフォーマンスの概念は当てはまります(経理の人間は几帳面な人が多いので、この点を忘れがちですが)。
――●「適当な」会計処理
では、重要性のない取引に「適当な」処理が望まれるとして、では「適当」とはどんな処理を指すのでしょう。
いちばん「適当さ」が求められるのは、償却や引当金、原価計算のように、処理に計算が必要なケースです。こうした場合には、@計算は概算もしくは簡便計算で行う、A月次は概算ベースにとどめ(もしくは処理なし)、期末だけ計算を行う、といった処理が実務的です。
いずれにしても処理方法に迷った場合には、まず概算でそのインパクトを把握し、それに応じた処理方法を選択します。
――●「重要性」の基準
ところで、いくらをもって重要とするかは、その人の立場によって異なります。
たとえば、経営者にとって必要な数字とは上3桁でしょう。ときどき、取引規模が大きい会社にもかかわらず、円単位で経営資料を作成する経理担当者を見かけます。経営者からすると、桁が多いために数字が小さく、大変見づらいものです。
一方、有能な担当者は、「ここを読み取ってほしい」という意図をもって作表します。その結果、作成された資料は、数字の桁に限らず、メリハリがあって分かりやすいものです。
経営者とは反対に、現場の処理を担当するスタッフレベルでは、重要性の基準はかなり低くなります。個々の取引レベルで、「1万円くらいどうでもいいや」とされたら、その集積である決算書は滅茶苦茶になってしまいます。しかも決算書の数字なら修正がききますが、対外的な処理をどんぶり勘定で行なったら、会社の信用問題にも関わります。