組織運営を語るときのキーワードの1つに、「共通言語」というのがあります。事業運営上の具体的な目標なり、判断・行動の基準なりをある言葉に集約し、それを社員全員が「合言葉」とすることで社内のベクトル合わせが実現し、組織が自律的に動き出すようになるというものです。
――●バランスシートを経営ツールとして利用する
さて、キャッシュフロー経営を社内に浸透させるという視点に立ったとき、「キャッシュフロー経営」はそのままダイレクトに「共通言語」になり得るでしょうか。
おそらく一般社員にまでキャッシュフローの概念を理解させるのは難しいことでしょう。あるいは、概念としては理解できても、それを具体的な経営行動の尺度にするには抽象度が高過ぎると考えられます。
そこで提唱したいのが、バランスシートを全社的な経営ツールとして利用することです。
別の項(バランスシートの「バランス」にはどんな意味があるのか?)でも説明したとおり、バランスシートはしくみが簡単であり、しかも図解でイメージしやすいという特徴をもっています。
この特長を捉えて、「バランスシートがどうなるか、考えてみる(イメージしてみる)」ことを共通言語とすることで、キャッシュフローの考え方を社内に浸透できるものと考えます。以下、具体例を通じて見ていきましょう。
――●ケーススタディ
とあるA社 の事例です。A社は、急成長のひずみで債権管理に支障をきたしていました。大口の得意先には、数千万円単位での請求漏れがあったほど。
そうした得意先の1つであるB社に、担当営業が請求漏れ分の回収交渉に行きました。請求漏れは3000万円にものぼります。他の得意先では交渉が難航しているところもあり、テンションを上げて交渉に臨みました。
ところがフタを開けてみると、先方の財務担当者は、「分かりました。請求漏れの分は今月お支払いたしましょう」と応じてきたのです。
但し、「その代わり、今の決済条件をひと月延ばしてくれないか」と、言葉を継ぐのを忘れませんでした。
担当営業はB社の話を呑み、債権回収の成功に喜色満面で帰ってきました。
後日、その上司の方が事の経緯を私に話し、「まったく、金利の概念が分かっていない。今の売掛金をひと月先延ばしにしたら、結局チャラじゃないか」と愚痴をこぼしていました。
さて、この話にはもうひとつ重要なポイントがあります。A社とB社の取引はその当時、月4000万円ほどで、取引は更に拡大傾向にありました。
それでは、このケースにバランスシートはどう「利用」できるでしょう。
(次ページに移る前に少し考えてみて下さい。)