◆ 第1編 「儲けの計算」を学ぶ前に

 ◆ §3 「儲け」を求める社会への変質

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――●経済のグローバル化と社会のネットワーク化

 もう少し回り道をして、「儲けの計算」を考える上での前提なり背景について見てみましょう。

 「儲けの計算」(企業会計や企業財務)との関連で、現在の社会経済について着目しておくべき点は何でしょう。それは社会経済の市場化・投資化です。経済のグローバル化と社会のネットワーク化が、日本に対して「儲け」を求める経済社会へと変質を迫っているのです。

 「市場原理」や「資本の論理」などという言葉を聞くと、日本人はすぐに心理的な抵抗感を覚えるものです。しかし、これは抗うことのできない時代の流れであり、耳をふさいだところで自分のところだけ波がよけて通ってくれるわけではありません。

 たとえば経済のグローバル化。収益性が低く「大競争」に敗れた企業は、日産のように外資の軍門に下ることもあるでしょう。あるいはそうでない企業でも、「儲け」を求め世界中を駆け巡るグローバル・マネーの投資先として、「もの言う」外国人株主からもっと「儲け」をあげるようプレッシャーをかけられ始めています。

 また、インターネットに代表される社会のネットワーク化も企業間取引の論理に修正を迫っています。「系列」取引は、オープンなネット調達に移行しつつあります。更に、ITや管理部門などのアウトソーシング会社の出現は、経営のすべての職能を1つの企業の中でまっとうするのでなく、まさにネットワークとして解決する道を示しています。

 こうした「儲け」を追求する社会への流れを象徴するのが、管理部門のサービス子会社化です。今、多くの大企業では経理部門をはじめとする管理部門を子会社化する動きが目立っています。設立された経理サービス子会社は、グループ会社の経理作業を引き受けるとともに、中にはグループ外からの経理事務を受託し、「儲け」を稼ぐことを要求されているところさえあります。

 単に結果としての「儲けの計算」をしていればよかった経理部門の人間でさえ、「儲け」を期待される時代になってきたのです。様々な「強い絆」は断ち切られ、それは「儲け」や「価値」を接点にした緩やかなネットワークへと置き換えられつつあります。現代社会は、そうした流動化の只中にあるわけです。

 

――●社会経済の市場化と投資化

 資本のグローバル化とネット社会の高度化が今後ますます進むことは疑いようがありません。これに呼応して紙切れとしての株式だけでなく、ヒトも企業も、市場の中で「取引」される時代になっていきます。

 日本における「資本主義のゆくえ」がどうなるかについては、様々な議論があります。仮に多くの論者が指摘するようにアメリカ型にはならないにしても、これまでの揺り戻しとしてアメリカ型に近づくことだけは避けようがありません。

 そこにあるのは経済の投資化です。経営者は、株主になり代わって企業の投資価値を最大化することを求められ、社員は個々の事業の投資価値を高めることを要求されています。

 この結果、企業経営の尺度としてROAやEVAなどの財務用語・投資用語がダイレクトに用いられるようになってきました。かつてのように、売上や市場シェアという単純で誰にでもわかる指標で組織運営をできる時代ではなくなりつつあるのです。

 組織や個人の業績指標は単純であれば単純なほど、ベクトル合わせを実現しやすく使い勝手のいいものです。売上などがそのまま「儲け」に結びつく時代であれば、それを指標とするのが得策でした。これまでは一般社員に求められる「儲けの計算」の知識も、せいぜい「決算書の読み方」程度で事足りました。

 然るに、今や会計の初歩知識だけでは通用しない時代に入りつつあります。企業の経営者は現在、キャッシュフローや資本コストなどの財務知識を社員へ浸透させるのに頭を痛めています。

 ともすればこれまでの会計学習は、「決算書でお腹いっぱい」という雰囲気が漂っていました。しかし、もはや決算書程度の知識ではせいぜい「腹五分目程度」です。時代の流れを認識して、ゴール設定を正しく行なうことこそ「儲けの計算」を身につける上での第一歩です。


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