これまで何度か記してきたように、会計とは経営活動を計数的に表現するものです。その意味で簿記や会計は、しばしば「ビジネス言語」と呼ばれます。
すなわち、会計はビジネスをする上でのコミュニケーション手段であり、共通語とされます。そのため、すべてのビジネスパーソンが身につけておくべきものとされ、中には新入社員全員に簿記の資格取得を義務付けている会社さえあります。
ただ、すべてのビジネスパーソンが簿記や会計の専門家になる必要はありません。詳しく知っていることに越したことはありませんが、一般のビジネスパーソンにとっては「日常会話」ができれば十分なのです。
この「日常会話」のレベルは、いわば決算書が読めるレベルです。ひとくちに「読める」と言っても様々ですが、主要な項目としくみが分かれば十分です。
それでは「決算書のしくみを理解する」という視点で、しばらく話を進めていきましょう。
――●簿記とは
決算書は、会社の個々の経営活動をまとめたものです。簿記とは、その個々の活動(簿記では「取引」と言います)を記録し、それを集計して決算書にまとめる作業、もしくはその計算手続きのことを指します。
もし会計と簿記を区別するとすれば、会計は決算書をめぐる理論、一方簿記は決算書を作るための具体的な計算手続き、といったかんじになるでしょうか。
前述したように一般のビジネスパーソンに必要なのは「決算書のしくみ」が分かるレベルです。「作る」レベルまでは必要ありません。したがって簿記に関しても、「決算書の成り立ち」という位置付けで個々の取引がどのように記録されるのか、そのしくみが理解できれば及第点でしょう。
それでは、この簿記のしくみ―言語体系―をざっくりと見ていきましょう。
――●簿記で「伝えたい」こと
そもそも、言語は何か「伝えたい」ことがあって、はじめて成立します。簿記は事業上の取引を記録するものですが、それによって一体何を伝えたいのでしょうか。結論を先取りすると、簿記で伝えたいのは「取引の原因と結果」です。ここが大事なポイントです。
「取引」には必ず二面性があります。原因と結果の二面性です(原因と結果はコインの裏表であり、見方によって裏と表の双方が、原因にもなれば、結果にもなります)。
今、「パソコンを買う」、「商品を売り上げる」、「銀行から資金を借り入れる」という3つの取引を例に考えてみましょう。この場合、上述の「取引」の例は、次のようにその二面性を表現できます。
・「@パソコンを買ったので、 A現金が減った」
・「@商品を売ったので、 A現金が増えた」
・「@銀行から借入をしたので、 A現金(預金)が増えた」
ところで現在、国や地方公共団体で、経理に企業会計の方法を導入しようという動きが始まっています。今までの経理の方法では、単純なキャッシュの増減しか記録せず、「原因と結果」を明らかにできないからです。
そのため、投資やサービスの効率性を測定できず、また、無駄な資産や膨大な負債の状況も把握できません。それにより、状況を掌握できずに対策が遅れ、更なる財政状態の悪化を招くという悪循環にはまっているのです。
一方、企業会計の簿記では、「原因と結果」を明らかにします。上の例で言えば、パソコンという投資の結果や、商品売上という収入の原因、資金調達の結果としての借入金残高を把握することができます。これにより、結果を見て、原因を分析し、経営の改善に結びつけることが可能になるのです。
単に結果を伝えるだけなら、コミュニケーションにはなりません。経理担当者からの一方通行の「お知らせ」です。経営活動が因果関係として記録され、それが議論の対象となる、ここにコミュニケーションが生まれます。
かつて整理したように、企業をめぐるステークホルダー(利害関係者)はたくさんいます。その分、コミュニケーションがより重要なものになってきます。
簿記というと検定試験の対象となるためか、堅苦しい計算技術の側面ばかりに目が行きがちです。しかし、「経営活動の原因と結果を記録し、コミュニケーションの素材を提供する」という本来の目的を忘れてしまうと、「難しい単語は知っているのに、日常会話すらできない」という忌まわしき英語学習の轍を踏みかねません。