◆ 第2編 決算書のしくみを知っておく

 ◆ §7 企業会計の面倒なところを知っておく

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――●ステークホルダーの多様性

 このシリーズの§4でこんなことを述べました。儲けの計算は、そもそも「回収−投資」という単純なものである。但し、企業の場合にはそれを取り巻くステークホルダー(利害関係者)がたくさんいるために、儲けの計算が複雑なものになってくる。

(おさらいすると、儲けは回収を前提とした概念であり、利害関係者それぞれに儲けの配分=回収が異なるために、それぞれの立場での儲けの計算が違ってくる、というものでした。)

 ここでステークホルダーの多様性には、株主や債権者、従業員、経営者などといった水平的な多様性のほかにもう1つ垂直的な切り口が存在します。それは、「現在のステークホルダーか、将来のステークホルダーか」といった時間軸をもとにした分け方です。

 ステークホルダーの企業への関わり方は本当に様々です。株式を公開している企業であれば、株主は文字どおり「出入り自由」です。極端な話、1日の間に株を買ってすぐに売る、すなわち株主になったと思ったら次の瞬間その会社との関わりを解消しているというパターンもあり得ます。

(実際に、ネット取引におけるデイトレーダーと呼ばれる人たちは、こうした株の売買をしています。)

 また、銀行が長期の契約で貸し付けをしている場合には、銀行と企業の関わりはその契約期間(返済期間)わたって及びます。ここで、その企業が自由に財産を配分してしまうと、銀行が借金の返済を受ける前に会社財産がなくなってしまうということもあり得ます。

(現実には、その前に銀行がいちばん早く「強制回収」をするのが常ですが・・・。)

 この結果、現在及び将来の利害関係者という視点も含め、これらステークホルダーの利害をどうやって調整していくかという問題が生じます。もう少し具体的に言えば、配分の対象となる「儲け」をどう規定(計算)するかといった問題がより重要になってきます。

 逆の言い方をすると、この利害調整のために、「儲けの計算をどう規定するか」が企業会計にほかならないのです。


――●期間を区切った「儲けの計算」

 さて、こうした利害調整のために考え出されたのが、「期間を区切って儲けの計算をし、その配分をしていこう」という考え方です。

 会計の教科書には必ず出てくる話ですが、大航海時代は航海の都度会社を作り、航海の終了とともに収支(儲け)の計算をし、出資者に配分をしていました。会社が完全にプロジェクト単位で存在していたわけです。この場合には、航海途中の段階で収支計算を試みても意味がありません。

 然るに、現代の企業は1つのプロジェクトだけを目的に存在しているわけではありません。むしろ、企業が未来永劫にわたって存続発展していくことを目的・前提として、大小様々なプロジェクト(投資機会)を走らせながら事業運営をしています。あるいは、1つ1つの事業も航海のように期間(終了)が明確なものではなく、継続反復して営まれるものが大半です。

 このため現代の企業にあっては、人為的に期間を区切って儲けの計算を行ない、その期間ごとに儲けの配分をしていかざるを得ないのです。

(すべての利害関係者がその企業と一生関わりを持てるわけではありません。中には「とりあえずの」儲けをもらってその企業とはさよならをしたいと考えている人もいるでしょう。また、そもそも企業が未来永劫存続することを前提とすれば、会社が終わるときにはじめて儲けの分配を行なうという考え自体が成り立つはずもありません。)


――●期間損益計算が必要なもうひとつの理由

 会計の世界では、この期間を区切った儲けの計算のことを期間損益計算といいます。

 ところで、期間損益計算は「儲けの配分計算」のためだけに必要なわけではありません。経営管理・業績評価上も期間を区切った儲けの計算が要請されます。

 企業が存続していくには、常に経営状況の把握が必要です。いまどのくらい儲かっているのか、あるいは損しているのかという情報が必要です。そのためには、定期的に期間を決めて業績を把握していかなければなりません。その上で、経営活動の原因と結果を見つめ直し、今後の経営にフィードバックしながら、環境の変化に対応していくわけです。

 また、この業績計算は現在その企業と利害関係をもっていない人にとっても重要です。すなわち、今後その企業と利害関係を持つべきか否かの貴重な情報になるからです。

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 さて、この期間損益計算の本質はどこにあるのでしょう。ひとことで言えば、タイミングの問題です。

 人為的な会計期間が決まっている以上、収益や費用は必ずどこかのタイミングで認識しなければなりません。ここで、その期間にその金額の損益を認識することに関し利害関係者の納得を得るには、そのタイミングの認識についてそれなりの「合理性」が必要になってきます。

 「合理性」と言うと聞こえはいいですが、実はこの合理性こそが企業会計を複雑で面倒なものにしています。中には合理性というより屁理屈と言ってしまった方がいいものもあります。一般の人を会計から遠ざけてしまうゆえんです。

次ページに続く▼

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