サンリオ 株価4000円回復こそ責務

 記事要旨 2003年7月10日 日経金融

 昨年10月、株式運用からの撤退を宣言したサンリオ。辻社長はこれを機に初の中期経営計画をまとめた。今後稼いだ利益はすべて配当と自社株買いに充てるなど株主への利益配分を強化する考えを示した。(以下、インタビューの発言抜粋)

 「株式運用に深入りした点は株主に深くおわびしたい。キャラクター商品を扱うサンリオにとって、株式運用がマイナスだったことに初めて気付いた。」

 「株式市場が重要だと考え方をもった政治家が余りに少ない。株式運用をやめたのは株式市場対策に無関心な政治に対する抗議の意味も込めている。」

 「今期予想の連結最終黒字25億円は確保できると見ている。設備投資はほとんど必要ない業態なので、現金収支は配当と自社株買いに充てる。」

 「株式運用による不確定要素がなくなったので、初めて中期経営計画を作ってみた。」

 「90年に9000円をつけた株価は、現在700円台半ばにとどまっているが)とにかく株価を4000円に引き上げたい。というのも、従業員持株会を通じて4000円近辺で買った社員が多く、損をさせてしまっているからだ。」

 「株価が安いと外国資本に買収されかねない。何十年も稼ぎ続けるハローキティを安く買われてしまっては大変だ。株価を引き上げることは経営の自主性を守るために何より喫緊の課題だ。」

 解説・コメント

ここ数年、「コーポレート・ガバナンス」という言葉が流行りだ。直訳すれば企業統治という意味だが、その背景にあるのは「会社は誰のものか」という議論だ。

 「会社は誰のものか」と訊かれれば、株主のものであり、社長のものでもない。但し、オーナー会社の場合、株主と社長は同じだから社長のものだとも言える。

 サンリオは辻社長が創業した会社であり、事実上のオーナー会社だ。しかし、オーナー一族の持株比率は3割程度と推測される。会社の7割は他人のものだ。 したがって、もはやサンリオは辻社長のものとは言えない。


しかしながら、社長の発言を読んでいると愕然とするほどに公開会社の社長としての自覚が感じられず、いまだに自分が株の90%くらいを所有しているような意識が垣間見れる。発言の言葉尻だけを揶揄するつもりはないが、辻社長の発言にはいくつものの疑問を呈したくなる。

 まず、株式運用について。サンリオは前期に永年の株式運用から撤退し、運用損を含め、160億円以上の関連損失を計上した(前々期は50億以上の運用損)。上場会社が早々に財テクから撤退するなか、資金運用を「本業」と強弁してきたツケである。

 結果として見ると、サンリオは公募増資で調達した資金を株式投資に回し、大きな穴を開けたかたちになっている。しかも、その責任に関しても政府の無策に転嫁しようとしている。また、株式撤退は政府への抗議というが、個人的な主張は個人の資産で もって行なうものだ。モラルハザードの極みとしか言いようがない。

 加えて、株式投資が「本業」というなら、ヘッジファンドよろしく市場が右肩下がりの場面でも利益を上げられるような体制を組むべきで、政府の無策を批判するのではなく、 むしろそれを見越して売りポジションを取るのがプロの投資というものだ。結局のところ、素人がプロにいいようにやられたといったところだろう。


また、辻社長は株価引き上げを意図した発言を展開している。株価を上げることは経営者の責務であり、それ自体は当然のことだが、この点に関しても首を傾げたくなる点がある.

 1つに従業員に損をさせているから株価を引き上げようという点。もちろん、社員株主も株主であり、株価上昇によりモラールがアップし、業績・株価が向上することを考えれば それ自体おかしな発言ではない。だが、サンリオは過去に社員株主の取得価格より高い株価での公募増資している。その株主に対する責任は感じないだろうか?

 利益還元に関しても、サンリオの財務内容を考えると疑問だ。サンリオは株式運用の失敗に加え、テーマパークの不振により財務内容は悪化し、減資によって欠損を解消するほどだ。自己資本比率も14%足らずで700億円以上の有利子負債を抱える。目先の株価引き上げの前に有利子負債削減により財務の安定を図るのが スジだろう。

 辻社長はハロー・キティのブランド価値を考えれば、現在の株価は割安で外資よる買収を危惧している。たしかに株価は割安だろう。しかしながら、株価低迷の元凶はまさに辻社長にある。株価は経営者に対する通信簿であり、マーケットが辻社長を信頼していないから株価は割安に放置されているのである。


株主が経営者に不満を抱いたときの選択肢は2つだ。1つは、経営者をクビにすることであり、もう1つは株式を売って株主をやめることだ。実際には社長をクビにするには株主がまとまらないとできないので、株を売ることで意思表示する。

 このように経営者はなかなか直接クビにならない。特にサンリオのようにオーナーが一定数のシェアを押さえているときはなおさらだ。ガバナンスが利かない分、業績の悪化も止まらない。

 そして、どうなるか。 考えられるのは、株価がどんどん下がって買収の標的とされるか、経営危機に陥って支援先に増資を引き受けてもらうか、もしくは銀行から引導を渡されるかだ。いずれにせよ、経営者が交代することで業績回復というか再建を目指すことになる。

 特に買収の可能性は今でも十分ある。サンリオのようなキャラクター商売は安定したキャッシュフローが見込めるから、外資と言わず、虎視眈々と狙っているところがあるはずだ。もし、辻社長が本当に株主のことを考えているなら、自ら身を引いて外部の人材に改革を頼むのが最後の責任というものだろう。そうすれば、株価4,000円も夢ではなくなるだろう。
 

 今日のポイント

株主によるガバナンスが利かない会社では業績悪化に歯止めがかかりづらい。投資を考えるなら注意が必要だ。

 

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