本文へスキップ
HOME 会計の基礎 財務の基礎 事業再生 ニュースで考える財務 弁護士のための会計・税務 提携先募集 事務所案内

自ら上場廃止、6年で64社 広がるMBO

 

記事要旨 【2011年2月3日 日経 】

 
 株式市場で自ら上場を廃止する企業が相次いでいる。2010年は経営陣が自社の株式を株主から買い上げる手法(MBO)で10社が上場廃止となり、日本でMBOが本格化した05年以降で計64社が市場を去った。株価低迷などで厳しさを増す株主の目や、上場に伴うコストから逃れ、中長期的な視点で経営に取り組む狙いだ。

 MBOを実施した企業が挙げる利点は、短期的な株価変動や株主への利益配分などにとらわれず、自社が持つ強みを長い目で育てられることだ。大規模な資産売却など大胆なリストラ策に踏み切る際にも意思決定が速まる。

 カネ余りも背中を押す。株式を非公開化すると増資などによる大規模な資金調達の道は狭まる。しかしながら、金融機関が貸し出し縮小に直面するなか、一定の信用力を保てれば融資などで必要な資金を手当てできる。取引所に支払う費用や情報開示などに使うコストとの見合いで、上場の損得を見極めやすくなっている。

 実際、金融機関はMBOに積極姿勢で対応している。リーマン・ショック以前のMBOは、投資ファンドが主導した。だが足元では経営陣が自ら金融機関から資金を手当てする例が増えている。MBO向け融資はリスクを伴う分、利ざやは4%前後と高い。三菱東京UFJ銀行では「現在、30社程度からMBO融資の相談があり、うち約半分が上場企業」という。

 

解説・コメント


MBOでは、幻冬舎の事例が特に関心を集めた。MBO発表前の株価に5割のプレミアムをつけたとはいえ、 下記のとおり買付価格は1株当たり純資産や上場時の公募価格を大きく下回っていた。

 ・TOB買付価格 ・・・・・220,000円(当初、その後248,00円に引き上げ)
 ・1株当たり純資産・・・367,963円(2010年6月時点)

 ・上場時の公募価格・・・400,000円(株式分割調整後)

 そして買付開始後、これに対抗する投資ファンドが 現れて株式の1/3超を買い集め、MBO確定のための株主総会の行方が注目された(定款変更のための特別決議として2/3以上の賛成が必要)。

 結局、対抗するファンドは信用取引によって株式を買い集めており、現物株式の引取りをしなかったため証券会社が実質の株主となった。最終的に証券会社は議決権を行使せず、MBOは実現した

 なお、このMBOも、記事の例にもれず株式取得資金を融資で調達している。創業者がMBOのために設立した会社(SPC)は、株式取得後、幻冬舎と合併することになっている。幻冬舎には44億円の現預金がある(2010年12月末)ので、これをつかって融資の多くを返済することもできる。


投資家からすれば、何とも空しくなるような話である。今回の構図を単純に言えば、 広く株主からおカネを集めた上で一般株主を排除し、財産全部を自分のものにしてしまうようなものだからだ。SPCの資本金(自己資金)がわずか10万円というのも空しさを増幅させる。

 幻冬舎の例は、MBOの中でも やや特異といえる。事業内容が出版業ということもあって、オーナー系の上場会社の中でも特に創業者個人に依存する部分が大きい。だからこそ、創業者がいなくなったときのリスクが意識されて、株価が低く推移してきたといえる。

 MBOに対抗したファンドは、幻冬舎が創業者抜きでは経営が成り立たないのは承知だろうから、本気で経営権を取りに行くつもりはなかったろう。

 さすがに上場当時からここまでの「大きな絵」を描いていたとは考えられないが、経営権の移動が実質的に難しい企業ではこうしたことも可能だというのが明らかになってしまった。新規上場企業の大半は創業者に依存しているから、「投資家の警戒→新興市場の低迷→新規上場のいっそうの停滞」という悪循環に陥ることも懸念される。


■さて、ここで株式上場(株式公開)の意味について考えてみよう。

 一般に、株式公開のメリットとして挙げられるのは、資金調達、知名度向上、信用力増大、優秀な人材の確保、創業者利潤の実現などである。一方、デメリットとしては、買収リスク、上場に伴うコストならびに事務負担の増加などが指摘される。

 もっとも実際のところは、そうした損得勘定の前に、とにかく経営者にとって株式上場は夢だという要素が大きい。

 ただ夢のない財務屋からすると、株式公開を目指すことは経営にとって大きなリスクを伴うことを認識して欲しいといっておきたい。実際、上場を目指したことが破綻のきっかけである企業も多い。

 
■上場を目指して破綻してしまうパターンは次のようなものだ。まず、事業が成長してくると、運転資金や設備投資資金が必要になってくる。当初は制度融資を含め、銀行借入で調達するが、銀行借入もやがて限界になる。

 そこで、資本での調達を模索する。一定額以上の資金を調達するためにはベンチャーキャピタル(VC)からの出資が一般的である。VCは投資先の株式上場によって資金回収を図ることが前提である。よって、VCから出資を受けることは、経営が「上場準備コース」に入ることを意味する(成長段階なので経営者自身も、「それ行けー!」と上場する気力に満ちている)。

 上場準備に入ると固定費が大幅に上場する。 まず、監査法人やコンサルティング会社等への報酬支払、管理部門の人員採用に伴って管理費が増加する。また、上場に向かって事業規模の拡大を図るので、人件費や物件費、投資費用などの営業費も増加する。

 会社によって幅はあるが、本気で上場準備すれば固定費は簡単に1億円は増えてしまう。特に昨今は内部管理体制の強化や会計基準変更への対応などのために、以前よりも固定費の増加幅は大きくなっている。

 業績の拡大で固定費増加を首尾よく吸収できればいいが、そうでないときには固定費が経営を大きく圧迫し、破綻に至ってしまう場合もある。また、外部からの出資=「ヒトのカネ」ということで経営に甘さが出てしまう側面もある。「好事魔多し」という諺もあるが、経営には アクセルを踏むときにこそバランス感覚が求められる。
 

株式上場を目指す経営者は、その責任とリスクを十分に認識することが肝要である。