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(Q)法人税の概要は?

 

(A)会社の決算上の利益に税務上の調整を加えて税額計算するしくみになっている 。

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 前の項では日本にける税金の全体像を俯瞰しましたが、企業法務を扱う場合に最も重要な法人税(及び住民税・事業税を含む、いわゆる法人所得税)について、その概要を解説します。


――●税金計算のしくみと手続き

 会社は事業年度(決算期)を定めて、通常、年に1回決算を行ないますが、法人税の計算はこの決算上の利益をベースに計算します。但し、決算上の利益がそのまま 課税対象(課税所得)になるわけではありません。

 会社の決算を無条件に認めると、会社側ではいろいろと調整をして課税所得を圧縮することを考えます。そこで、課税の公平を実現すべく、税務上の損益の認識には一定の要件を定め、決算上の損益のうちこれを満たさないものは税務上(課税所得計算上)の損益とはしないこととしています。なお、税務上の収入は益金、税務上の経費は損金と呼ばれます。

 すなわち税金計算は、決算上の利益に税務上の調整を加えて課税所得を計算し、これをもとに税額を算出します。そして、これら一連の手続きを会社自身が行ない、確定申告書として所轄の税務署に提出することになっています。

 税率は、資本金1億円超の大企業の場合は一律30%、中小企業の場合は課税所得800万円までについては18%の軽減税率が適用されます。

 なお、確定申告は納税者の「自己申告」です。そこで、税務当局がその妥当性をチェックする手続きとして、税務調査が行なわれます。通常は3〜5年おきに税務調査があり、該当期間の申告内容について調査され、税務上の要件を満たしていない処理については否認され、法人税の追徴を受けることになります。


――●税務調整の概要

 ここで、上述した税務調整の概要を例示しておきます。税務調整の対象となるは、会社側が調整しやすい項目、具体的にいえば取引相手を伴わず会社側の内部判断で処理できる項目が中心です。

【役員賞与】
 役員報酬が税務上損金として認められるには、給与月額が原則として事業年度において一定額であることが求められています。見込みより利益が出たからといって途中で報酬を増額しても、税務当局から見ればまさに利益調整として損金としては認めません。臨時の報酬は役員賞与として損金には該当しません。
 また、決算上の処理の名目に関わらず、役員個人に対する利益供与(役員個人が負担すべき経費を会社が負担するなど)は税務上は役員賞与として認定されます。この場合は、法人税上の損金にならないばかりか、個人の所得としても認定され、所得税の課税対象となってきます(給与として会社による源泉徴収の対象となります。 会社に法人・個人の課税が生じることから、俗に往復ビンタ課税といいます)。オーナー会社では法人の経費か個人の経費かという線引きがあいまいなケースが多いので、注意が必要です(オーナー会社の税務調査の重点項目でもあります)。

【減価償却】
 減価償却は金銭の支出を伴わない会社の内部計算による経費であり、利益調整項目の典型です。そこで、税務上は資産の種類ごとに減価償却の計算方法(償却率)が定められており、これを超える償却額は損金としては認められません。実務上は、税務調整の手間を避けるため、税務上の償却計算を決算上の償却計算として計上するケースが大半です。

【不良債権処理(貸倒損失・貸倒引当金)】
 不良債権処理をはじめとする資産の評価損計上も会社の内部判断に基づくものであり、会社によって判断は様々です。そこで、税務上は法的に債権がなくなったり、物理的に資産がなくなったりしていない段階での資産の評価損計上を原則として認めず、一定の要件を満たす場合に限定しています。

【交際費・寄付金】
 交際費は事業上必要な面もありますが、一方でその効果(経済合理性)が不透明でもあり、また相手方が経済的利益の供与を受けている(餞別など)にもかかわらず課税されない実情もあります。そこで、取引先等に対する交際費も原則として損金として認められないことになっています。
 また寄付も反対給付を伴わない支出であり、経済合理性の観点からは必要のない経費です。さらに、寄付は特殊な関係にある相手方に対して行なわれることも多く、利益調整の手段となり得ます。そこで、寄付金を無制限に損金として認めることは適当でないことから、会社の規模に応じて一定額を損金参入の限度額として定めています。
 なお、寄付金は直接資金を提供するだけでなく、資産を時価より低額で譲渡したり(低廉譲渡)、反対に相手方から資産を時価より高い金額で購入したり(高額買入)して、相手方に利益供する場合も寄付金として認定されることになります。


――●繰越欠損金

  前述したとおり、法人税の計算は事業年度ごとの損益をもとにしていますが、前年度以前に欠損がある場合はこれを当該事業年度の所得と相殺することができます。単年度で利益が出ていても欠損がある会社は財務内容で健全ではなく、担税力がないものとの配慮によります。
 欠損は原則として7年間繰り越すことができ、この間の所得から控除できます(当該事業年度に100の利益があり、前年度に150の赤字がある場合、所得100と欠損100を相殺したのち、さらに残る50(150−100)を次年度以降の欠損として繰り越すことができます)。
 このほか、法的整理で債務免除益が生じるケースなど一定の場合には、期限切れの繰越欠損金も利益と相殺することができます。
 なお、平成23年度の税制改正において、大企業における欠損金の充当を一部制限(充当する事業年度の所得金額の8割に制限)すること、一方で欠損金の繰越期間を7年から9年に延長することが予定されています。


――●地方税

 会社決算に基づく税金は、法人税以外にも地方税としての住民税、事業税があります

【住民税】
 住民税は申告納付先が都道府県と市町村にとに分かれます。なお、東京23区は「区民税」というものはなく、都民税として一体化されています。課税方法は法人税額を基礎としてこれに一定の税率をかける 「法人税割」と、資本金(資本剰余金含む)と従業員の規模によって決まる「均等割」とがあります。均等割は赤字会社でも納付が必要です。
 法人税割の税率、均等割の税額は自治体によって若干差があります(一般に、大都市部は高い税率になります)。 法人税割の標準税率は、都道府県民税が5%、市町村民税が12.3%となっています。均等割の標準税率は次のとおりです。
 

資本金等

従業員数

市町村民税

都道府県民税

1億円超10億円以下

 

50人超

400千円

130千円

 

50人以下

160千円

1,000万円超1億円以下

 

50人超

150千円

50千円

 

50人以下

130千円

1,000万円以下

 

50人超

120千円

20千円

 

50人以下

50千円


【事業税】
 事業税は都道府県を申告納付先とする地方税です(都道府県民税と同じ申告書で一緒に申告計算します)。 事業税は課税標準(課税の計算対象)によって所得割、資本割、付加価値割とに分かれます。 このうち、中小企業は所得割(法人税申告時の課税所得に事業税の税率を乗じて課税)だけがかかります。一方、大企業(資本金1億円超の法人)は外形標準課税といって、 赤字であっても会社規模に応じて課税され、資金金規模に基づく資本割、利益に給与や家賃等を上乗せした付加価値金額に基づく付加価値割がかかってきます。
  事業税は住民税同様、自治体によって若干差があります。標準税率は、所得割が課税所得の5.3%(外形標準課税による法人の場合は3.26%)、付加価値割が付加価値額の0.504%、資本割が資本金(資本剰余金含む)の0.2%となっています(所得金額によって軽減税率があります)。

【地方法人特別税】
 なお、課税権限としては国税に区分されるのですが、都道府県を申告納付先とする 法人所得税としてこのほかに地方法人特別税というのがあります。これは、自治体の間の税収格差を是正するために事業税を分離して設けられた税金で、地方 に納付された税金を国がプールした上で地方にあらためて再分配するしくみになっています。
 税率は事業税の税額にリンクしており、外形標準課税法人は事業税所得割額の148%、中小法人は事業税額の81%となっています。
 


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