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(Q)巷にあふれる「企業債権本」で注意すべき点は?

 

(A)書かれている対策が自分の会社でも実行できるものか 、疑ってみる必要がある。

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 会社の経営が厳しい状況に追い込まれ、思い悩む経営者がまず取る行動は何でしょう?相談する相手もなく、また相談したくない内容でもあるので、まず自己解決を考えるものです。解決策を求めて本屋に行き、いろいろな「企業債権本」を手に取ってみることでしょう(あるいは、ネットでいろいろと情報検索を試みることでしょう)。

 世の中にはいろいろな「企業債権本」が出回っています。相談に来た依頼者から、「こういうことはできないのか?」と、どこかで読んだのであろう対策を質問されることもあります。

 経営者は藁をもすがる思いで本を読んでおり、また事業再生(法務・財務・税務)の専門家でもないので、本の内容を鵜呑みにしがちです。しかし、生兵法で「対策」を実行することはリスクを伴います。そこで、実務家としてこれらの情報収集に際して注意すべき点を少し説明しましょう。

 

●そもそも怪しい・法的リスクがある

 企業再建本の中にはそもそも「怪しい」本があるのも事実です。特に、インターネットでは思わず笑ってしまうほど胡散臭いものがあります。夢のような再建事例が「お客様の声」として掲載されていたり・・・。

 甘い言葉を囁いて接近し、実は「整理屋」 だったというのはよくある話です。整理屋というのは、会社再建と称して再建どころかまさに会社を食い物にしてしまう業者のことです。

 基本的に、「借金踏み倒し」(債務カット)を前面にしているところは業者自体が怪しい、もしくはスキームに法的リスクがある(スキーム実行後に債権者等から詐害行為等で訴えられる)と考えた方が無難です。

 

●書かれている「成功事例」は限定的な状況でしか当てはまらない

 「怪しい本」でないとしても、一般に「企業債権本」は著者の営業用の本です。そのため、著者に都合のいいことしか書きません。そこに書かれている成功事例は著者が扱った案件の中からうまくいった数件を抽出したもので、案件すべてが成功しているわけではありません。

 −−150億円の借入金を別の銀行からの借り換えによって半額に圧縮。しかも代表者は名目上だけ代表権を息子に譲り、以前と変わらず数千万円の役員報酬を得る。自宅はもちろん、個人財産の処分は一切なし。債務圧縮に伴う課税もなし。−−

 これは、私の「成功事例」です。資金繰りに苦しんでいる経営者がこの事例を読んだら、「そんなことができるなら自分の会社も!」と思うことでしょう。しかし残念ながら、ここまでの成功は到底約束できません。

 この事例のポイントは時代背景にあります。この事例は小泉・竹中時代のもので、当時、銀行に対して不良債権の最終処理(銀行から不良債権を切り離すこと)を半ば強制していました。このため、銀行は サービーサーと呼ばれる債権買取会社に不良債権を売り急いでいました。不良債権なので、貸出額面よりも大幅に低い金額で売却していました。

 この事例のスキームを単純化して説明すれば、こうです。すなわち、ある銀行がサービサーに債権を売却をし、その後、会社側が別の銀行から借入をしてその債権を75億円で買い戻したものです。サービサーはもともと75億円より低い金額で債権を買っているので、額面の半額での 買戻しに応じても利益になります。結果、会社からすると150億円の借入金が75億円に半減できたことになります。

 

 これはDPO(Discount Pay Out)と呼ばれる手法ですが、現在では有効な手法ではありません(今でも、銀行借入は返済しなければいずれサービサーに債権売却され、サービサーと話をつければ借入の減額が可能になる と説いている本もありますが)。

 理由は2つあります。1つはサービサーの問題です。この事例の当時は不良債権ビジネスの黎明期で、サービサーは外資系や大手ノンバンクに限られていました。不良債権処理加速のため債権の売却金額も低く、債権売却に事業再生という大義名分があったこともあり、会社側からすれば大幅な債権カットも可能な状況でした。

 しかし今では、銀行のバブル処理は既に終わり、不良債権ビジネスも変質して、商工ローン業者が債権を買っている状況です。債権の売却金額も高くなっています。会社側に待っているのは、業者による厳しい取り立てです。

 もう1つは会社側の問題です。バブル型の不良債権は不動産等の資産価値の劣化が主因で、事業自体はそれなりの黒字を確保できる状況でした。したがって、不良債権に見合う借入金の削減ができれば会社としては再建できることが見込め、だからこそ別の銀行から融資を受けることも可能でした。

 しかしながら、現在の不良債権は本業不振によるものが大半です。DPOのための借り換え資金どころか、目先の運転資金をどう確保するかに窮しているわけです。

 

 この世に汎用的な再建スキームなどありません。会社の状況はもちろん、そのときの経済金融情勢、借入銀行の状況等により千差万別です。また経営者自身の考え方も様々でしょう。人様にはできるだけ迷惑はかけたくないと考えている人、借金なんて踏み倒せばいいと考えている人・・・。

 再建を悩んでいる状況は制約条件に置かれている状況にあります(資金繰り等が思うように行かないから悩んでいるわけで)。再建・再生というのは制約条件の中でどういった解決が可能なのかを模索することであり、制約条件によって自ずと解は変わってきます。